神戸地方裁判所 平成8年(ワ)1587号 判決 1997年9月30日
原告
橋元二三子
被告
日比野八重子
主文
一 被告は、原告に対し、金五〇七万五二二九円及びこれに対する平成五年一二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金一六八三万円及びこれに対する平成五年一二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により傷害を負った原告が、被告に対し、自動車損害賠償保障法三条に基づき、損害賠償を求める事案である。
なお、付帯請求は、本件事故の発生した日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。
二 争いのない事実
1 交通事故の発生
(一) 発生日時
平成五年一二月二五日午前六時ころ
(二) 発生場所
兵庫県西宮市池田町四番三三号先路上
(三) 争いのない範囲の事故態様
被告は、普通乗用自動車(神戸七七ぬ二二四〇。以下「被告車両」という。)を運転し、右発生場所に西から向かってきた後、北側路外の駐車場に入るため、左折を開始した。
他方、原告は、自転車に乗り、右発生場所北側の歩道を西から東へ直進していた。
そして、右駐車場入口の歩道部分で、原告の自転車と被告車両とが衝突した。
2 責任原因
被告は、被告車両の運行供用者であるから、自動車損害賠償保障法三条により、本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任がある。
三 争点
本件の主要な争点は次のとおりである。
1 本件事故の態様及び過失相殺の要否、程度
2 原告に生じた損害額
四 争点1(本件事故の態様等)に関する当事者の主張
1 被告
本件事故は、被告車両が路外の駐車場に入るために、あらかじめ左折の合図をして、時速約一〇キロメートルのゆっくりとした速度で左折をほぼ完了した時に、東進する原告運転の自転車が被告車両の左側後部に接触し、右自転車が転倒したものである。
本件事故現場付近の車道及び歩道には、多数の駐車車両があった。そして、被告車両が左折する際、被告は、右駐車車両にさえぎられて、原告車両を発見することが不可能であった。
他方、原告は前方の注視義務を怠り、被告車両が直前を通過しているにもかかわらず、衝突回避動作をとらず、被告車両の左側後部に右自転車を接触させた。
よって、少なくとも三割以上の過失相殺がなされるべきである。
2 原告
本件事故は、被告車両の前部と原告の自転車の後部とが接触したものである。
五 証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
六 本件の口頭弁論の終結の日は平成九年九月二日である。
第三争点に対する判断
一 争点1(本件事故の態様等)
1 検甲第一号証の一ないし七、乙第五号証の二ないし四、六、七、原告及び被告の各本人尋問の結果によると、本件事故の態様に関し、前記争いのない事実のほかに次の事実を認めることができる。
(一) 本件事故の発生場所付近の道路は、中央分離帯により、東行き車線と西行き車線とが画されている。そして、このうち東行き車線は、片側二車線の車道と幅約五・〇メートルの自転車が通行することができるとされている歩道とからなり、車道と歩道とは縁石線により区画されている。
また、原告の自転車と被告車両とが衝突したのは、車道から路外の駐車場への進入路にあたる部分であり、右進入路とその他の歩道との間には段差がなく、他方、車道から駐車場への進入路も駐車場側がやや高所、車道側がやや低所のゆるやかな傾斜が設けられているため、車道と右進入路との間にもほとんど段差がない。なお、車道と右進入路との間は、他の部分同様、縁石線により区画されている。
(二) 本件事故の発生した当時、右進入路の西側の歩道及び車道上には、数台の駐車車両があり、歩道のうち自転車が走行可能な幅員は、約二・三メートルであった。
(三) 被告は、被告車両を運転して路外の駐車場に左折進行するにあたり、右駐車車両のために歩行者等の安全が確認できない状況であったにもかかわらず、徐行又は一時停止の措置をとることなく、時速約一〇キロメートルで漫然と左折進行した。
他方、原告も、自転車に乗り、前方注視が不完全な状態のまま、漫然と右歩道上を東進した。
そして、原告の自転車の前部と被告車両の左側後部とが衝突し、原告は自転車ごと転倒した。
なお、右衝突時、車長四・四六メートルの被告車両のほぼ前半分は路外の駐車場内にあり、ほぼ後ろ半分が進入路上にあった。
また、右衝突の直前まで原告は被告車両に気づいておらず、被告は原告の自転車をまったく認識していなかった。
(四) 右衝突の衝撃を感じて、被告は直ちに自車を停止させた。
なお、右衝突後、被告車両は、約二・二メートル前進した位置で停止した。
2 右認定に反し、被告本人尋問の中には、被告車両が車道上にある時から原告の自転車と衝突するまでの間、被告車両は何回も停止し、被告は左右の安全を確認しながら進行したとする部分がある。
しかし、事故直後に実施された実況見分調書(乙第五号証の二)のうち被告の指示説明部分、事故日になされた被告の司法警察員に対する供述の供述調書(乙第五号証の三)、後日なされた被告の検察官に対する供述の供述調書(乙第五号証の七)によると、被告は、被告車両が左折を開始した直後に歩道上を見たものの、駐車車両のため、充分には安全を確認することができなかったこと、にもかかわらず、被告は、左折を続行したこと、被告車両は、減速して左折を開始してから原告の自転車と衝突するまでの間、一回も停止したことはないこと、この間、被告が歩道上の安全を確認したことはなく、自車前方の駐車場内にもっぱら注意を奪われていたことが認められ、これに反する被告人本人尋問の結果の中の右部分は、まったく信用することができない。
また、原告は、本件事故は、被告車両の前部と原告の自転車の後部とが接触したものである旨主張するが、乙第五号証の二によると、原告の自転車が接触したのは被告車両の左側後部であることが明らかである。
3 ところで、原告の自転車と被告車両とが衝突したのは、車道から路外の駐車場への進入路にあたる部分であるが、1(一)認定の事実、とりわけ、この進入路にあたる部分と車道との間も縁石線により区画されていることに照らすと、この部分は、道路交通法二条一項二号にいう「歩道」にあたるというべきである。
したがって、被告車両を運転して路外の駐車場に入ろうとしていた被告には、右進入路にあたる部分の手前で一時停止し、かつ、歩行者の通行を妨げないようにしなければならない注意義務(道路交通法一七条二項、一項ただし書き。)があったことは明らかである。
また、本件事故の発生した当時、歩道及び車道上にあった数台の駐車車両の存在は、被告の注意義務を軽減するものではなく、むしろこれを加重するものというべきである。
にもかかわらず、前記認定のとおり、被告は、進入路にあたる部分の手前で一時停止することなく、かつ、歩道上を通行する歩行者や自転車の存在を充分に確認することができない状態のまま、漫然と左折進行したのであるから、その過失は誠に重大である。
しかし、他方、前判示のとおり、原告は、本件事故の直前まで被告車両に気づいておらず、しかも、原告の自転車が接触したのは被告車両の左側後部であるから、原告も、歩道上に駐車している車両のため、幅が狭くなり、かつ、安全確認が困難になった歩道上を、前方を充分に注視することなく、漫然自転車を走行した過失があるというべきである。
そして、原告と被告の右両過失の内容を対比すると、例外的に歩道を横断することのできた被告車両が、歩道を適法に通行していた原告の自転車の安全を一方的に妨害したのであるから、被告の過失の割合の方がはるかに大きいといわざるをえず、具体的には、本件事故に対する過失の割合を、原告が一〇パーセント、被告が九〇パーセントとするのが相当である。
二 争点2(原告に生じた損害額)
争点2に関し、原告は、別表の請求欄記載のとおり主張する。これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容欄記載の金額を、原告の損害として認める。
1 原告の傷害等
まず、原告の損害の算定の基礎となるべき原告の傷害の部位、程度、入通院期間、治療の経緯、後遺障害の内容、程度等について検討する。
甲第二号証、第五号証、乙第一ないし第四号証、第五号証の三、五、第六、第七号証、第一一号証、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、次の事実を認めることができる。
(一) 原告は、本件事故直後、救急車で医療法人高明会西宮渡邊病院(以下「渡邊病院」という。)に搬入され、右足関節脱臼骨折(脛腓骨関節内)、頭部打撲、右下肢打撲の診断を受け、本件事故発生の発生した日である平成五年一二月二五日から平成六年二月二三日まで入院した。
なお、右入院期間中の平成五年一二月二八日、右足関節骨折に対する整復のための手術が施行された。
(二) ついで、原告は、平成六年二月二四日から一一月七日まで渡邊病院に通院し、続いて、同月八日から一九日まで同病院に入院した(先の入院と通じて、入院日数合計七三日)。
なお、右入院期間中の平成六年一一月九日、抜釘術が施行された。
また、原告は、右入院後、同月二〇日から平成七年一二月二五日まで同病院に通院した。
ただし、本件事故直後から、本件事故以外の原因による原告の私病に対する治療も併せて行われており、特に、平成七年一月一七日から同年五月三一日までは、阪神・淡路大震災の際に受傷した右大腿骨顆部骨折のために、原告は、同病院に入院し、また、同年九月一一日から同年一二月一八日までは、てんかん発作の際に熱湯をこぼして受傷した左下腿熱傷のために、原告は、同病院に入院した。
(三) 渡邊病院の医師は、原告の傷害が平成七年一二月二五日に症状固定した旨の後遺障害診断書(甲第五号証)を発行した。
右診断書によると、原告の当時の自覚症状は、「長時間の立位で足が痛くなる。寒冷にて疼痛が出現する。雨ふりで足のはこびがわるい。階段昇降がつらい。」というものであり、右足関節の可動域の制限、腓骨部の後方凸部の変形、足関節全体の骨萎縮の他覚的所見が得られ、腓骨部の変形があるため変形性関節症に移行しやすいとの医師の見通しが記載されている。
そして、自動車損害賠償責任保険手続において、原告の右後遺障害は、自動車損害賠償保障法施行令別表一二級七号(一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの)に該当するとの認定を受けた。
2 損害
(一) 治療費
(1) 乙第二号証、第四号証、第六号証によると、原告は、本件事故による傷害の治療を渡邊病院のみで受けたこと、本件事故の発生した平成五年一二月二五日から同月三一日までの同病院の治療は、いわゆる自由診療で行われたこと、平成六年一月一日からの治療は、原告の夫の加入する国民健康保険を利用して行われたことが認められる。
そして、被告は、平成七年一月一七日までの原告の治療費は被告が一部を除いて負担し、その金額は金二七〇万七一五八円である旨主張し、これは、渡邊病院の自由診療分金一〇九万四五三六円、平成七年一月一七日までの国民健康保険による治療費のうち患者負担分金四五万四〇〇〇円、右期間の国民健康保険による治療費のうち保険者である西宮市が保険給付して後に被告の加入する保険会社が西宮市に支払った金九七万八四九九円(西宮市と右保険会社との協議により、西宮市が保険給付した金額の九五パーセントに相当する右金額を右保険会社が支払った。)、右保険会社が原告の夫である橋本賢照に対して治療費患者負担分の名目で支払った金一八万〇一二三円の合計額である。
また、被告は、右治療費のうち本件事故と因果関係のあるものは多くとも二分の一である旨主張する。
これに対し、原告は、渡邊病院分の自由診療分と患者負担分の合計金一五四万八五三六円を認め、これを超える部分は原告には明らかではないが、被告の主張によると金二七〇万七一五八円であり、そのすべてが本件事故と因果関係のある損害である旨主張する。
(2) ところで、交通事故の被害者が、これにより生じた傷害の治療を健康保険を利用して受けた場合、右被害者に発生した損害である治療費のうち保険給付を受けた金額については、保険給付を受けることにより填補されるのであって、後に加害者から保険者に対してされる支払により填補されるのではないこと、保険者による保険給付の後は、被害者の損害賠償請求権も保険者に移転し(国民健康保険においては国民健康保険法六四条一項)、右被害者はその限りにおいて損害賠償請求権を喪失すること、右被害者について、当該交通事故に関して過失相殺の対象となるべき過失が存在すると否とを問わず、保険者は保険給付を拒めないことに照らすと、被害者から加害者に対してされる損害賠償請求の損害額の計算にあたっては、治療費のうち保険給付を受けた金額は、損害にも損害の填補にも計上しないとするのが相当である。すなわち、被告主張のように、保険給付を受けた金額を損害及び損害の填補に計上した場合、過失相殺後に損害の填補が行われる結果、本来過失相殺が問題とならない保険給付を受けた金額についても過失相殺による減額が行われたのと同じ結果となり、被害者はその限りにおいて保険給付が行われなかったことになって損失を生じ、他方、その限りにおいて加害者に利得が生じるからである。なお、本件においては西宮市と被告の加入する保険会社とは、保険給付した金額の九五パーセントを右保険会社が支払う旨の合意をしており、本判決が認定する過失相殺の割合とは異なっているが、これは西宮市と加害者との間で解決されるべき問題であって、これを被害者に転嫁することは許されない。
(3) 被告は、原告の渡邊病院における治療費のうち、本件事故と因果関係のあるものは多くとも二分の一である旨主張する。
しかし、自由診療の期間である平成五年一二月二五日から同月三一日までの治療費については、乙第二号証、第六号証により認められるこの間の治療の経緯に照らし、そのすべてが本件事故と因果関係のある損害であることが優に認められる。
ただ、乙第四号証、第一一号証によると、国民健康保険による治療の期間である平成六年一月一日から平成七年一月一七日までの治療費については、西宮市は、診療点数一四万八一〇七点のうち私病に対する治療を除いた一四万四一七七点のみを本件事故による傷害に対する治療と認め、これに相応する保険給付の金額を被告の加入する保険会社に請求したことが認められ、これによると、右一四万四一七七点に対応しない治療費は本件事故と因果関係がないというべきである。
そして、具体的には、乙第四号証により、国民健康保険による治療費のうち患者負担分については、右一四万四一七七点に対応する金額(治療費は一点一〇円で患者負担分はその三〇パーセントであるから、一点三円となる。)である金四三万二五三一円、及び、右期間の治療費のうち保険給付の対象外の部分金九六八〇円の合計である金四四万二二一一円が本件事故と因果関係のある損害となる。
(4) 後に判示するとおり、被告の加入する保険会社が原告の夫である橋本賢照に対して治療費患者負担分の名目で金一八万〇一二三円を支払ったことは認められるが、これが何らかの治療費として発生したことを認めるに足りる証拠はまったくない。
むしろ、乙第二号証、第四号証(いずれも診療報酬明細書)によると、渡邊病院における治療費は右各診療報酬明細書に記載されている金額に尽きることが認められ、これを超えて治療費が発生したことは認められない。
(5) 以上によると、原告に生じた治療費は、渡邊病院の自由診療分金一〇九万四五三六円、平成七年一月一七日までの国民健康保険による治療費のうち患者負担分の一部金四四万二二一一円、以上合計金一五三万六七四七円である。
(二) 入院付添費
原告の入院期間中、付添が必要であったことを認めるに足りる証拠はない上、原告本人尋問の結果によると、原告の夫が入院中の原告に付き添ったのは、二週間ぐらいの期間に、二日に一回程度の割合で、一回につき各一時間程度であったことが認められる。
そして、これによると、原告に、入院付添費として何らかの賠償が必要であるほどの損害が生じたとは認められない。
(三) 入院雑費
入院雑費は、前記入院期間七三日につき、一日金一三〇〇円の割合で認めるのが相当であるから、次の計算式により、金九万四九〇〇円となる。
計算式 1,300×73=94,900
(四) 休業損害
原告本人尋問の結果によると、原告は、本件事故当時、夫及び息子と三人で居住しており(原告には娘もいるが、すでに結婚して別所帯である。)、主婦業に携わっていたこと、原告と夫とはたこ焼き屋を営んでいたこと、本件事故のため、右たこ焼き屋は閉店のやむなきに至ったこと、原告は、平成六年二月二三日に渡邊病院を退院した後、約一か月間は松葉杖をついていたことが認められる。
そして、これらによると、本件事故の発生した日である平成五年一二月二五日から原告が主張する三八八日間のうち、入院期間七三日に三〇日を加えた一〇三日間は原告は労働能力のすべてを喪失して休業のやむなきに至り、それ以外の二八五日間は一部の家事労働をすることができたものの、それ以外をすることができず、結局、休業損害の算定にあたっては、三分の一の労働能力を喪失したものとするのが相当である。
また、原告の本件事故当時の就業状況によると、休業損害を算定するにあたっては、家庭の主婦にあったものとして、賃金センサス平成六年度第一巻第一表の産業計、企業規模計、女子労働者、学歴計、五〇~五四歳に記載された金額(これが年間金三四四万〇八〇〇円であることは当裁判所に顕著である。)を基礎とするのが相当である。
したがって、休業損害は、次の計算式により、金一八六万六五一六円となる(円未満切捨て。以下同様。)。
計算式 3,440,800÷365×(103+285÷3)=1,866,516
(五) 後遺障害による逸失利益
前記認定の後遺障害の部位、程度によると、原告は、症状固定日である平成七年一二月二五日(原告は満五五歳)から一二年間にわたって、労働能力の一四パーセントを喪失したというべきである。
なお、原告は、原告の後遺障害は自動車損害賠償保障法施行令別表の一〇級一一号に該当し、右後遺障害により労働能力の二七パーセントを喪失した旨主張する。しかし、その根拠とする甲第二号証は、渡邊病院の主治医が作成した甲第五号証に照らし、直ちに採用することはできない。
そして、後遺障害による逸失利益を算定する基礎となる年収は前記金三四四万〇八〇〇円を採用し、本件事故時(原告は満五三歳)の現価を求めるための中間利息の控除は新ホフマン方式によるのが相当であるから(二年の新ホフマン係数は一・八六一四、一四年の新ホフマン係数は一〇・四〇九四)、後遺障害による逸失利益は、次の計算式により、金四一一万七六七四円となる。
計算式 3,440,800×0.14×(10.4094-1.8614)=4,117,674
(六) 慰謝料
前記認定の本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、入通院期間、治療の経緯、後遺障害の内容、程度、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故により原告に生じた精神的損害を慰謝するには、金三六〇万円をもってするのが相当である(うち後遺障害に相当する分は金二二〇万円である。)。
(七) 小計
(一)ないし(六)の合計は、金一一二一万五八三七円である。
3 過失相殺
争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する原告の過失の割合を一〇パーセントとするのが相当であるから、過失相殺として、原告の損害から右割合を控除する。
したがって、右控除後の金額は、次の計算式により、金一〇〇九万四二五三円となる。
計算式 11,215,837×(1-0.1)=10,094,253
4 損害の填補
被告の加入する保険会社が渡邊病院の治療費金一五四万八五三六円を同病院に支払ったこと、休業補償の内金として金一四八万八二〇〇円を原告に支払ったこと、被告の加入する自動車損害賠償責任保険の保険会社が金二二四万円を原告に支払ったことは当事者間に争いがない。
また、乙第九号証の一ないし三、第一〇号証の一ないし三によると、右保険会社が、原告に装具代名目で金一万二一六五円を支払ったこと、治療費内金名目で金一八万〇一二三円を支払ったことが認められる(装具代は、被告の従前の主張を訂正した被告の平成九年九月二日付準備書面(第八回口頭弁論で陳述)に記載されておらず、被告が主張を撤回したものと解すほかはないが、同じ口頭弁論で陳述された原告の一九九七年九月二日付第三準備書面にはこれを認める旨の記載がされており、被告の援用しない原告の不利益陳述にあたるものとして、証拠により認定した。)。
被告の主張のうち、被告の加入する保険会社が西宮市に支払った国民健康保険の保険給付に対応する金額が、損害の填補として計上されるべきではないことは既に判示したとおりである。
したがって、右合計金五四六万九〇二四円がすでに填補されたものとして、右金額を原告の損害から控除すると、残額は金四六二万五二二九円となる。
5 弁護士費用
原告が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、被告が負担すべき弁護士費用を金四五万円とするのが相当である。
第四結論
よって、原告の請求は、主文第一項記載の限度で理由があるからこの範囲で認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 永吉孝夫)
別表